鉄のフライパンを買った。これさえあれば中華料理屋のような炒飯もつくることができる。ただ少し物足りない。中華料理屋気分に浸るには料理だけではだめなのだ。

自宅のキッチンにある工夫をすることで、中華料理屋気分を盛り上げた。

〇使えば使うほどこびりつかなくなる


うれしくなって帰宅途中に写真を撮った。撮影場所に意味はない。

一般的なフライパンはテフロン加工だが、鉄フライパンはテフロン加工と違って劣化しずらい。テフロン加工のものだと二年も使えば剥げてしまいこびりつくようになるが、鉄フライパンなら本体が歪んだり錆びてしまわなければ何十年でも使えるのだ。

 


油を入れると鈍く光るのがとってもステキ。

鉄フライパンには強火でガンガン使えるというメリットがある。優秀だけど病弱な人間よりも、どんなきつい仕事でも終わってしまえば笑いながら酒を飲み始めるラグビー部出身の方が部下としては可愛がられる。鉄フライパンはラグビー部なのだ。

 


料理の一番のコツは道具を揃えることだと思う。

 

〇中華料理屋とは何か。サインだ。

鉄フライパンを手に入れたことによって、炒飯や焼きそばなど、ちょっとした中華の出来が見違えてよくなった。

ただ中華料理屋気分にはまだ何か足りない。それは味ではなく、ビジュアルの問題だ。

 


3枚で足りるのに、9枚買ってきてしまった。

中華料理屋らしさとは何か。それはサインだ。壁に貼られている油で汚れた有名人のサインこそ一流の証である。

もちろん有名人のサインなんてもっていない。好きな作家のサイン本なら何冊かあるけど、壁に貼るには重すぎるし、そもそもそんな中華料理屋を見たことがない。中華料理屋の主人は本を読まないからだ。

 


食レポと言えば石ちゃん。

持っていないのなら作ってしまえばいい。いつもそうやってきた。

画像検索をして自分にも書けそうなもの、中華料理屋に貼ってありそうな人のサインを真似して書く。何枚も失敗したので色紙を多めに買ってきてよかった。

 


自分で書いた石ちゃんのサイン。日付が古いのは撮影だけして放置していたから。

 


同じく食レポといえばこの人、彦摩呂である。

 


色紙に描かれている似顔絵が可愛かったので。

 


菜々緒が一人で中華料理屋にいたらいいな、と思った。いないけど。

 


U.Nのサインこれが誰のものかわかるだろうか。


本人のものと偽ってヤフオクで売れば2500円くらいにはなる。そういう生き方の人もいる。

5枚のサインを用意した。石ちゃん、彦摩呂、片桐はいり、菜々緒、U.Nはウッチャンナンチャンだ。ウッチャンが好きなので書いてみたかった。スカッとジャパンは絶対に見ないけど、ウッチャンが大好きだから。

 

〇キッチンに並べればそこはもう人気中華料理店


燃えるのが怖いので少し高めに設置した。

ワンルームの一口コンロでも、ちょっと立派に見える。有名人のサインのオーラが放つパワーはすごい。どうだろう。中華料理屋そっくりとはいえないが、80パーセントくらいは中華料理屋に見えるのではないか。

理解を示さない人もいるかもしれないが、そんなのはコロッケのモノマネを見て「似てない」というようなものだ。

 


何もない状態と比べるとその中華料理屋感は天と地ほどの差がある。

 

〇菜々緒のサインを油で汚す快感

ここから仕上げに入る。さきほど80パーセントと書いたが、残りの20パーセントを埋めるための策が『油』だ。

中華料理屋のサインは油で汚れて完成する。男と同じだ。

 


サインを貼って数日はなるべく油っぽいものを調理するようにした。

 


ほら、みんな。からあげだよ。

回鍋肉、唐揚げ、餃子、肉野菜炒め、焼きそば。なるべく油っぽいものを選んでつくった。「鉄フライパンは鉄分の補給もできて健康的!」なんて思っていたのがばからしいくらいだ。これだけ油っぽいものを食べていて健康的も何もない。でも多少太っている方が中華料理屋っぽくていいかもしれない。

たまに枯れ木のようなおじさんがやってる中華料理屋あるけど、あの人普段何食べてるの?

 


貼って時間がたつと反ってきた。剥がれると大変なことになるのでこわい。

油がはねて色紙にかかれば自然と黄ばんでくるものだと思っていたが、1週間やそこらでは無理があった。多少の染みはできるものの、目指すものには程遠い。やはり一人前の中華料理屋になるのには長い年月が必要なのだ。目指すものの遠さに膝をつく。

 


油にどーん。

正攻法は諦めた。色紙も紙なので日光に晒すと黄ばみが増すような気がしたが、それだと何年もかかる。うちの本棚にある武装錬金がすっかり古本っぽくなっていて驚いたけど、あれを買ったのは中学生のころだった。紙がきちんと黄ばむには十年以上かかるのだ。

 


これじゃだめだ。

そこで閃いた。まさに天啓。油がはねるのを待つくらいなら、油に直接つけてしまえばいい。しかしその考えもすぐにだめだとわかった。フライパンよりも色紙の方が大きくて、全部入らないのだ。

ただそこで諦めるような男ではない。一人前の中華料理屋を目指すにはこんなところで立ち止まってはいられない。油に色紙が入らないのなら、色紙に油をかけてしまえばいい。これぞコロンブスの卵。逆転の発想。菜々緒に油。

 


油をドバーッ! これならどうだ。

 


油に沈む菜々緒のサイン。官能的。

 


丁寧にふき取る。すまん菜々緒。

 


気持ち悪い病気みたいになっちゃったな。

今回わかったことは、黒マジックで書いた文字に油をかけるとなぜか赤色で滲む。

 


〇おわり

写真を見返して思ったのが、キッチンに紙製のものを貼るのは絶対によくない。火事になる。

油まみれの菜々緒のサインは燃えるゴミで捨てた。紙と油なのでたぶんよく燃えただろう。菜々緒のサインを燃やした熱は、電気になって我々の生活を照らしている。

 


The following two tabs change content below.
能登 たわし

能登 たわし

ローストビーフ丼って見た目ほどおいしくない。