今週気づいたこと。
「確定申告するならインターネットの必要な手続きでご自分でやられますか? マイナンバーの確定申告の」
去年の夏に引っ越しをして区役所に手続きをしに行った。住民票を移すだけの簡単な作業のはずが、窓口のおじさんが口にした言葉は予想以上に複雑なものだった。
「はい?」聞き返しても結局は同じ言葉が繰り返されるだけだ。いや、正確には同じことを繰り返しているのかもわからない。おじさんはしどろもどろで何を言っているのかうまく聞き取れないのだ。早口なうえに小声なのでもう一度聞き返す。だめだ、理解できない。「どういうことですか?」「すみません、もう一回いいですか?」
「2月に確定申告があってマイナンバーカードを使うときは自宅でできるんですがその証明があるんですね。証明をするなら手続きが必要なんですよ」
5回目でようやくうっすらと意味がわかるようになってきた。確定申告に関係する何らかの手続きがあることだけはわかったが、それ以上は何もわからない。成人男性が5往復やりとりして得られる情報としては少なすぎるだろ。このやりとりだけでもう20分以上使っている。
「ええと、今ここで何か手続きが必要なんですか?」
「確定申告をしますか?」
「たぶん」
引っ越したときは職があったが、翌月には失う予定だった。あらかじめわかっていれば失うこともそんなに怖くない。無職になれば確定申告をする必要がある。
「このマイナンバーカードの手続きが確定申告で必要になるんですけど、ご自宅で確定申告ですか?」
おおげさでなくこれくらいわけがわからなかった。むしろある程度整理して書いているぶんこれらの文章の方がずっとわかりやすいくらいだ。
「今ここで何か書類を書いたりするんですか?」
せめてその何らかの手続きに必要な書類を見れば手がかりを得られるかもしれない、という考えも「マイナンバーカードで確定申告をしますか?」という返答で打ち砕かれる。
ここにきておじさんの状態が見えてきた。23歳の春、就職して初めて売り場に立ったとき、おじさんと同じような状態になったことがあるのを思い出したのだ。おじさんは何の手続きの説明をしているか自分でも理解していないのだ。研修で習ったし、この場合は説明しなければいけないことだけは覚えているが、肝心の手続きの内容をきちんと理解していないから、ギリギリ覚えている単語を繋いでどうにかこの場を乗り切ろうとしている。
「わかりました!」
結局その確定申告に必要な何らかの手続きは諦めて、転入届だけを出して帰ることにした。おじさんの気持ち、俺にはわかるよ。
そして3月になった現在、俺は確定申告をしようとしている。e-Taxというシステムを利用すれば税務署までいかなくてもネットで済ませることができるのだ。もろもろの計算も終わらせたので後は必要な数値を入力して送信するだけ……のはずが、送信でエラーがでる。
「電子証明書が失効しています。電子証明書については各自治体の窓口でお問い合わせください」
どういうことだ? 今俺は再就職のため学校に通っていて税務署があいている時間に行くことができないから、わざわざe-Taxに必要なカードリーダーも買ったのに、窓口に行く必要がある?
調べてみると「引っ越しをするとe-Taxに必要な電子証明書が失効する」「電子証明書の発行は役所の窓口でやる必要がある」という事実が明らかになった。
なるほど! 謎が解けた。おじさんが言いたかったのは、「転入届のついでに電子証明書の手続きもしておくと確定申告が楽になるよ」ということだったのだ。半年前の疑問がこうして氷解するとは思わなかった。いやー、スッキリしたね。スッキリ……したけど、確定申告はまだ終わっていない。
区役所の窓口は当然平日にしかあいていない。学校が終わるのは5時で、窓口があいているのも5時までだ。どうやっても間に合わないぞ。来週のどこかの日に朝8時半の開庁と同時に窓口に飛び込むしかない。20分以内に手続きを終わらせて、9時前の電車に乗ることができれば遅刻せずに済む。
20分以内……。
窓口の担当は、あのおじさん以外の人でお願いします。

能登 たわし

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