今週気づいたこと。人生で一番おいしかったラーメンの話。

 

「今まで生きてきて一番おいしかったものって何?」という問いに明確な答えを返せるだろうか? 

俺は返せる。喜多方で食べたラーメンだ。

名物にうまいものなしなんて言われるが、たいていの名物はどれもそこそこうまい。あんなのは食通が贅沢を極めてわがままをいっているだけで、名物には名物になるだけの理由がある。しかも俺の食べたラーメンはそこらの食通が一生かけても味わうことのできないようなおいしさだった。

何度目かの大学生の夏休み、サイクリング部に所属していた俺は、荷台にテントを積んで東北を巡る遊びをしていた。あなたが今「ああ、あれね」と想像したそれだ。部活としての東北一周が終わり、各々東京まで帰る途中にせっかくだから喜多方でラーメンを食べようということになった。

そのとき一緒に行動していたのは俺を含めて四人。二、三週間まともな場所で寝ていないせいで体力はかなり尽きていた。今となっては正確な場所もわからない、どこかの山道であまりに日差しがつらくて足をとめた記憶がある。自転車から降りることもできず、歩道もない道で山に身体をあずけて少し休んだ。

おそらく数十分寝ていたと思う。ふと気づいたら刺すように感じられていた日差しもやわらいで、気力も体力も回復していた。少し先に進んだところにちょっとした展望台のような場所があって、先に行っていた3人は休んで待っていてくれた。俺もベンチに腰をおろすと、何もかもわからなくなってまた数十分眠った。

そんな思いをして山を越えた頃にはすっかり日も暮れていて、「観光地なんだからどこかしらやってる」という甘い見通しを裏切るようにどの店も店を閉めた後だった。当時はスマートフォンもなかったし、古いケータイはすぐに電池が切れるし、調べ物にはほとんど役に立たなかった。ガイドブックと途中で手に入れた観光案内の冊子を頼りにどうにか一件だけまだやっている店を見つけて滑り込んだ。汗でドロドロになった小汚い俺たちを、店の人は笑顔で受け入れてくれたのを覚えている。

透き通った少ししょっぱいスープ、太めの麺、しっかりと味がついた柔らかいチャーシュー。

全てが最高だった。ものを食べて本当に「染みる」と思ったのはあれが最初で最後だ。俺たちはあっというまにスープまで飲み干した。あの一杯は間違いなく人生で最高のメシだったと言える。

 

そしてあれから五年、引っ越してきた町の区役所のすぐそばに、喜多方ラーメンの店があった。

大学から二駅しか離れていないのに今までまったく気づかなかった。

あれ以来喜多方ラーメンは食べていない。喜多方ラーメンという名前のものはカップ麺すら避けてきた。怖いのだ。あのとき食べた最高の一杯の記憶が上書きされてしまうのだ、とにかくおそろしかった。

あれはただの思い出補正だと、突きつけられるのではないかという恐怖と、もう一度食べてみたらどう思うのかという好奇心がせめぎ合う。そしてこういうときはいつだって好奇心が勝つ。そういう風に生まれてきてしまったのだ。店を見つけてから半年後、意を決して店に入った。食べるのはもちろん喜多方ラーメン。クーポンで480円だった。

運ばれてきたラーメンと対峙する。見た目はほとんど同じだ。おそるおそる口に運んでみる。少ししょっぱいスープに、味の染みたチャーシュー、太めの麺……もちろん感動はあのときほどではないが、きちんと記憶通りの味がした。

「おいしい! 本当においしくてよかった! 思い出補正じゃなかった」としきりに繰り返していたら、一緒に行った人に「店の人に聞こえると失礼だからあまり大きな声で言わない方がいい」とたしなめられた。その通りだ。とにかくラーメンがおいしくてよかった。

 

 

あのとき一緒に走ってラーメンを食べた彼らとは、今でも年に数回会うし、最近はよく通話しながらモンスターハンターをやっている。ゲームをしながら今回の話をしてみた。彼らはあのとき一緒に食べたラーメンのことを覚えているだろうか。

「あれ以来初めて喜多方ラーメン食べたんだけどさ」

「へえ。あ、閃光弾使うよ」

閃光弾使うよ。

クシャルダオラを倒しました。


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能登 たわし

能登 たわし

ローストビーフ丼って見た目ほどおいしくない。