今週気付いたこと。
間が悪いタイプの人間だ。
普段行かないちょっと珍しいお店に行ってみるとまず定休日、あるいは臨時休業だし、駅の階段を上っているときに電車は発車する。
現在無職で求職中なのだが、なんとか職のあてができた。ただしひとつ問題があって就業開始が7月からなのだ。5月、6月と丸々2ヶ月以上を無収入で暮らさなければならない。バイトをしようにも二ヶ月の短期間ではお店で働くことも難しいだろう。
そこでやろうと思ったのが宅配の仕事だ。飲食店の宅配システムのバイトで、登録だけ済ませておけばあとは好きなタイミングで働いて配達した件数分のバイト料をもらうことができる。配達には趣味で乗っているロードバイクをそのまま使えるし、ちょうど暖かくなってきて走ろうと思っていたのでちょうどいい。
さっそくwebで申し込みを済ませて、配達用のバッグを受け取りに登録センターに行った。
同じようなことを考えている人は多いのか、平日で雨だというのにセンターにはそこそこ人がいて、待合所には6人くらいスタッフからの講習の順番待ちをしていた。俺も受付を済ませて待合所に座る。ちょうど俺のあとに色黒の男2人組が入ってきた。長髪を後ろで束ね、まだ少し肌寒いというのに短パンでオラついている。
説明ビデオを見ながら待つ。5分ほどたち1人また1人と名前を呼ばれてスタッフの講習を受けに行く。その間。男2人組はずっとイライラしたようすで足をタン、タン、タン、と地面に打ち付けていた。たまたま隣に座ったやつがこういうのなんてちょっと間が悪いな、と思いつつ気にしないようにして座っていた。
10分ほど経ったとき、男が大きな声を出し始めた。
「待ってんだけどー」
「ねえ俺、待ってんだけどー!」
待ってるのは知ってる。ここにいる人は全員待ってるんだから。
ピリッとした空気が流れ、部屋にいた全員がチラッと男を見る。大声を聞きつけた受付スタッフが慌てて駆け寄ってきて何かを話していた。
「どうぞ」
男は奥に通された。奥では登録のための手続きと講習が行われている。つまり順番を抜かされたのだ。
「あのー……」
とんでもないやつだな、と思いつつ奥へ行く男を見送っていると、受付スタッフが声をかけてきた。
「ただいま大変混み合っておりまして、もしよろしければビデオ通話で登録と講習をしていただけるんですが……」
ちゃんと手続きさえできれば方法はなんでもいいので、もちろん了承した。iPadを渡され、たまに聞こえなくなる通話に苦戦しつつどうにか手続きを済ませた。
「ではあとは配達用のバッグを受け取ってからお帰りください」
「はい、ありがとうございましたー」
通話を終えて配達バッグを受け取ろうとすると、受付スタッフがまた申し訳なさそうな顔をしている。
「あの、今ちょっとバッグの在庫が切れてまして」
なんとまあ間が悪い。
後日宅配便で自宅まで送ってくれるというので書類に住所を記入して帰った。
それから2週間、宅配バッグはまだ届かない。仕事が始められないので当然ながら収入もない。
余計なことを考えてもしょうがない、と思いつつもどうしても考えずにはいられない。
もしかして、あの男たちの分で最後だったんじゃないの?
運がないのが一番悪い。
能登 たわし
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