先日、飲み屋で意気投合した女性から腕を貰った。
先日、飲み屋で意気投合した女性から腕を貰った。
肩から先、丸ごと一本。
腕を。
荒唐無稽な話だが、事実である。
生まれつき腕が外れる体質で、家にはスペアもいっぱいあるから、あげる、とのことだった。
目の前でがちゃりと外された時にはさすがに驚いたものだが、世の中には色々なひとがいるものだ、と私は酔いに任せて納得した。
世の中には腕が文字通り外れる人が一定数いて、スペアの腕の需要があって、気に入った人には腕をあげちゃうことも、まま、あることなのだ。
そういうわけで、今我が家には腕が一本余分にある。
だがよく考えると腕なんぞ貰ってどうするというのだ。押入れの肥やしにするにも中途半端に大きいし、たまにもぞもぞ動くし。腐りはしないとのことだったが。
しかし、せっかく友好の証として譲り受けたものだ。出来れば邪魔にはしたくなかった。
私は思案しながら、やや日焼けした肌色の腕を眺める。蛍光グリーンの光を放ち続ける半球状の接続部は、持ち主から離れてもなお、常にほのかな暖かさを保っていた。
義手のようなものなのかと彼女に問うてみたが、腕は腕だよ、とのこと。
確かに見れば見るほど、奇妙な接続部を除いてはひと肌そのものだ。
そういえば、と思った。
昔から凝り性の私は、仕事に疲れて帰ってきた夜、風呂あがりに肩のマッサージをするのが日課になっていた。これをしないと翌日首が回らなかったりする。困った体質である。
試みに貰い物の腕で肩をぼんぼんと叩いてみると、まるで他人に叩いてもらっているように感じられてとても気持ちが良かった。
ぼんぼん。
これはいいものを貰った。
ぼぼぼん。
絶妙な重み、長さ、感触。
ぼんぼんぼん。
次に会った時には、しっかり礼を言わなければ。
ぼん。
そうして数か月後、行きつけの飲み屋でついに彼女と再会した。
「そういえばどうしたよアタシの腕は。まさか捨てちゃいないよねえ」
スペアの腕でビールの杯を持った彼女は、半ば恩着せがましくそう言った。
私は待ってましたとばかりに口を開く。
とんでもない、毎晩しっかりお世話になっているとも。君の腕を使うとじつに気持ちが良いんだ―――。
くわとろ
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